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東京地方裁判所 昭和49年(ワ)248号 判決

原告 長田利子 外九名

被告 東洋畜産株式会社

主文

1  被告は、原告長田利子に対し、東京都において発行する日本経済新聞に二段抜一倍ポイトの活字をもつて別紙記載の公告をせよ。

2  原告長田利子を除くその余の原告らの訴えをいずれも却下する。

3  訴訟費用は、原告長田利子と被告との間においては被告の負担とし、その余の原告らと被告との間においては同原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら

1  被告は、原告らに対し、東京都において発行する日本経済新聞に別紙記載の公告をせよ。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

1  原告らの請求はいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告長田利子及び訴外長田留男(以下、訴外留男という。)の両名は、被告会社の株式を各二、〇〇〇株ずつ引き受けて、これを所有していたが、訴外留男は、昭和四四年一月五日に死亡したので、同人の相続人である原告らは、同訴外人所有の右株式二、〇〇〇株を相続により承継取得した。そして、原告らは、昭和四九年一〇月一五日に右株式の権利行使者を原告長田利子と定め、同月一七日到達の書面で被告に対し、その旨通知をした。

2  被告は、昭和四八年一〇月一日開催の臨時株主総会において、被告会社の株式を譲渡するには取締役会の承認を要するものとする旨の定款変更の決議をなした。そして、被告は、商法三五〇条一項所定の公告手続を経由するとともに、同月二七日付の書面で原告長田利子及び訴外留男の両名に対し、その所持している被告会社の株券を同年一二月一日までに被告に提出すべき旨の通知をし、同書面はその頃原告長田利子に到達した。

3  しかしながら、原告らは被告会社発行の前記株式を表彰する株券の所在が不明であるため、被告に右株券を提出することができない。

4  ところで、被告会社の定款には、株主に対する公告は東京都において発行する日本経済新聞に掲載する旨規定されている。

5  よつて原告らは、商法三五〇条、三七八条に基づいて、「原告らの求めた裁判」に記載のとおりの判決を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実のうち、訴外留男が原告ら主張の日に死亡したこと及び原告らが同人の相続人であることは知らない。

その余の事実は認める。

2  同2の事実は認める。

3  同3の事実は争う。

4  同4の事実は認める。

三  被告の主張

1  原告らは、訴外留男所有にかかる被告会社の株式二、〇〇〇株を相続によつて承継取得したとしても、その旨の株主名簿の名義書換手続をしていないから、右株式の取得をもつて被告に対抗することができない。

2  原告らは、その主張の株式につき新株券の発行を求めるために本訴請求をしているが、商法三五〇条が準用している同法三七八条は、同条所定の要件が備わつた場合には、会社は新株券を交付することができると規定しているにすぎないのであるから、会社は、同条所定の要件がある場合でも、新株券を交付すべき義務を負うものではない。したがつて、旧株券を提出しないで新株券の交付を請求するには、商法二三〇条二項によつて除権判決を得るほかないのである。けだし、会社の公告した旧株券の提出期間満了後に、旧株券の所持者がこれを提出し、かつ、右の提出期間満了前の株式取得であることを証明して、株主名簿の名義書換請求及び新株券の交付を請求した場合、会社は、株式譲渡制限の定めの効力発生を理由としてこれを拒否することはできないから、重複して新株券を発行する危険にさらされる虞れがあるからである。

3  商法三七八条による新株券の交付は、旧株券を提出することのできない者に対する例外の場合を規定したもので、これを厳格に解すべく、善意の旧株券取得者に対する関係においても、また新株券を二重に発行する危険を防止するためにも、漫然、旧株券を提出できないというのみで、被告の納得すべき何らの事由も示さず、かつ、これを証明しないでその公告を求めることは許されない。

四  被告の主張に対する原告らの反論

1  被告の主張1は争う。訴外留男が被告会社の株主名簿に株主として登載されている以上、同人の一般承継人である原告らは、株主名簿の名義書換手続を経由しなくても右株式の相続による承継取得を被告に対抗することができるものというべきである。

2  被告の主張2及び3は争う。

第三証拠〈省略〉

理由

一  原告長田利子以外の原告らの本件訴えの適否について

訴外留男が被告会社の株式を二〇〇〇株を引き受けてこれを所有していたことは、当事者間に争いがなく、原本の存在及びその成立に争いのない甲第五号証の一ないし五、成立に争いのない甲第六号証の一並びに原告長田利子本人尋問の結果を総合すれば、訴外留男は昭和四四年一月五日に死亡し、原告らが同訴外人の相続人であることが認められ、この認定に反する証拠はない。

ところで、株式を相続により準共有するに至つた共同相続人がその株式について会社に対して権利を行使するためには、商法二〇三条二項の規定に従い、株主の権利を行使すべき者一人を定めなければならないから(最高裁昭和四五年一月二二日判決民集二四巻一号六頁参照)、会社に対する株主としての諸権利はすべてそれを行使すべき者と定められた一人が行使することになり、したがつて、他の者はこれを行使することができないものと解すべきである。

ところで、原告らは、昭和四九年一〇月一五日、訴外留男の所有していた被告会社の株式二、〇〇〇株についてその権利行使者を原告長田利子と定め、同月一七日到達の書面で被告に対し、その旨の通知をしたことは、当事者間に争いがないから、原告長田利子だけが右株式の権利行使者であり、その余の原告らは、被告に対し、右株式の権利行使をすることができないものというべきである。

本訴請求が原告らにおいて株主であることに基づき会社に対し権利を行使するものであることは、原告らの主張自体から明らかである。

したがつて、原告長田利子を除くその余の原告らは、本件訴えにつき原告適格を有しないものといわなければならないから、同原告らの本件訴えは不適法として却下を免れない。

二  原告長田利子の本訴請求の当否について

原告長田利子及び訴外留男が被告会社の株式を二、〇〇〇株ずつ引き受けてこれを所有していることは、当事者間に争いがなく、原告らが訴外留男の相続人であり、原告らの間で同訴外人の所有していた被告会社の株式二〇〇〇株につき原告長田利子をその権利行使者と定め、その旨被告に通知したことは、前記認定のとおりである。

したがつて、同原告は、自己所有の株式二〇〇〇株及び原告ら所有の株式二〇〇〇株につき、株主として会社に対し同法二二五条八号所定の譲渡制限を記載した新株券(以下単に新株券という。)の交付を求め得べき資格を有するものである。

そして、請求原因2の事実は当事者間に争いがなく、原告長田利子本人尋問の結果によれば、原告長田利子は、被告から提出を求められた被告会社の株式を表彰する株券の所在が不明であつたため、これを被告に提出することができなかつた事実を認めることができ、また、請求原因4の事実は当事者間に争いがない。

そうすると原告長田利子の被告に対する同法三七八条に基づく本件異議催告公告請求は理由がある。

ところで、被告は、原告らが訴外留男所有の株式を相続によつて承継取得したとしても、これについて株主名簿の名義書換を経ていないから、被告に対抗することができない旨及び同法二三〇条二項による除権判決を得なければ被告に対して新株券の交付を請求できない旨主張するが、同法三五〇条三項によつて準用する同法三七八条の異議催告制度は、同法三四八条所定の株式譲渡制限がなされた場合の既発行株券(以下旧株券という。)の回収及び新株券発行手続事務の迅速な処理のために同法三五〇条一、二項の定めがされたことに対応して、旧株券を会社に提出することができない株主および質権者が、除権判決を得て株主名簿に登載されるまでもなく、簡易に新株券の交付を受け得られることを期待して定められた制度であるから、被告の前記主張は、右制度の趣旨に徴し、いずれも採用することができない。(なお、被告は、同法三七八条所定の手続を経て、公告期間中に異議を述べる者がなかつた場合でも、会社は公告請求者に新株券を交付する義務を負わない旨主張するが、このような場合には、会社は右公告請求者に対し新株券を交付する義務を負担し、また新株券を交付することによつて免責されるものと解するのが相当である。)

さらに、被告は、原告に右異議催告制度を認めると、会社の公告した旧株券提出期間満了後、旧株券を提出し、かつ、右提出期間満了前に株式を取得したことを証明して、名義書換の請求及び新株券の交付を求める請求があつた場合、会社は、株式譲渡制限の定めの効力発生を理由にこれを拒否することはできないから、重複して新株券を発行する危険にさらされる虞れがあると主張する。しかし、同法三七八条所定の手続は、同一の新株券の交付を求めようとする者相互間の紛争に会社が巻きこまれる危険を防止するためにも定められたものであるから、被告が右手続を経て、利害関係人の異議がないため、公告請求者に新株券を交付した後においては、被告は、右手続を経たことを理由に、他の者の所論の請求を正当に拒否することができ、同人に対して、新株券を交付する義務を負担することはなく、したがつて被告の右主張は採用のかぎりでない。

被告は、また、原告らが、漫然、旧株券を提出できないというのみで、被告の納得すべき何らの事由も示さず、かつ、これを証明しないから、本訴公告請求をすることは許されない旨主張する。しかしながら、本件旧株券の所在が不明であることは先に認定したとおりであり、それ以上に、旧株券を提出できない事由を被告の納得するまで主張、立証させることは、原告長田利子に対し難きを強いるものであるというべきである。なお、被告が新株券を二重に発行する危険のないことは前段説示のとおりであり、善意の旧株券取得者は、新株券の交付を受けた者との間で別個に新株券の帰属を定める方途をとるべきであり、公告に対し異議を述べなかつた以上は、右の方途をとらねばならぬ不利益を甘受すべきものである。よつて、被告の右主張も採用しがたい。

三  結論

よつて、原告長田利子の本訴請求は、理由があるからこれを認容することとし、その余の原告らの本件各訴えは、不適法であるからこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、第九二条、第九三条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 柳川俊一 平手勇治 清水信雄)

(別紙)「株券提出不能に対する異議申述公告」

当社の長田留男名義株式二、〇〇〇株、長田利子名義株式二、〇〇〇株につき、長田留男相続人及び長田利子に新株券を交付することに異議のある方は、本公告の翌日から起算して三月内にお申出下さい。

東京都千代田区富士見一丁目二番二一号

東洋畜産株式会社

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